宿 -咲き乱れ

(2017-05-27)
こんにちは。今日は雨だったので引きこもり。

ひたすらに脱力し、
3、4時間くらい昼寝しちゃいました。
明日は仕事ですが、代わりに月曜が休みなので、
頑張ろうと思います。

さてさて、今日はなんと【宿】の続編となります。

今までのお話はこちら。
宿 -雨宿り
宿 -愛煙消えん
宿 -蝉時雨
宿 -秋冷
宿 -合縁奇縁

因みに上から季節不明、不明、夏、秋(前編)、秋(後編)となっています。
そして今回は春です。あれ冬はどうしたのって?
冬のお話は応真さんのブログ「夢言忘羊」にてお読みください。
こちら→冬の吐息は珈琲の匂い。冬の足音は三本足。
手抜きじゃないよ!?ただ応真さんが書いてくださったので、
僕は冬の話は敢えて書かないぜ!っていう…それだけだぜ!

最後に【宿】を更新したのは1月なので、
かなり久しぶりの更新となりますね。
ちょっと春を過ぎたけれど勘弁してね!
と思いましたが、そもそも1月に秋の話書いてたわ…。
いつも通り、改行適当でお送りします!はりきってどうぞ!



換気のために開けた窓から、桜の花弁が一枚、ひらひらとベッドの上に舞い降りた。
なんとも春を感じる情緒豊かなその光景を、私は歯を磨きながら眠け眼で眺めていた。
時間の流れという概念から隔絶されていると言っても過言ではないこの宿で、
こうも季節を感じる存在があるというのは異質と言えば異質だ。そもそも花の似合わない私は、
なんだかこの世間に持て囃されている桜というものを、美しいとは別段感じない。
日本の四季だとか淡い色彩だとか、親しい人間と花を見て酌をするとか、そういうものに興味も関心もない私には、
その良さがわからないのだろう。私は歯磨きを終え、窓を開けたままいつものソファへ向かう。
春といえば新年度、しかし一年というのは一月に始まるものだというのに、年度は四月からというのは一体どういうことなのだろう。働いていない私には、別段関係の無いことだが。人間関係も持ち物も一新されるわけでもなく、
春夏秋冬を問わず、なんの変化もない。

ピンポーン

いつも通りインターホンが私を呼ぶ。
これもいつも通り、なんの変化も変哲もない日常だ。
強いて言うならば、少しインターホンの音が弱くなった気がする。
エアコンに続いて、そろそろ買い替えの時期だろうか。
「はい」
「どーもこんにちは、花見とか行きません?」
「行くわけないだろう…仕事以外でも花を見るのが好きなのか?花屋」
宿の恐らく唯一の常連、花屋が花束を持って立っていた。
これが何度目の来訪かは数えていないが、二桁は優に超えている。
歴代トップクラスであることは疑いようもない。
「まぁ、確かにプライベートでも花は好きですよ。当たり前じゃないですか」
そう言って、笑いながら花屋は靴を脱いで、並べ、私の後ろをついてくる。
花屋なだけあって、基本土産は花なのだが、こうやって何かを持って来る男は滅多にいない。
いや、いなくなったというのが正解か。せめて菓子の一つでも持ってきてくれれば、
茶請けにできて良いのに、とたまに思う。
「今回の花はなんだ?」
「今日はですねー、ジャスミンです」
「ほう」
珈琲ばかり飲んでいる私でも、ジャスミンはお茶になるということは知っている。
種類によってやや時期は違うが、基本は春の花のはずだ。
白い花弁から、独特の香りが漂っている。
「あんまり僕は桜が好きではないので、奇を衒ってジャスミンです」
「なんだ、お前も桜が嫌いなのか」
「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし…ってご存知ないですか?」
「生憎、私に学や教養はないぞ」
「平安の歌人が詠んだものでして、桜が無ければ春はみんな落ち着けるのにねーって意味ですね」
花屋はジャスミンを花瓶に生け、机の上に置いた。
殺風景なこの部屋だが、花があるだけでかなり変わるものだ。
むしろ花を際立たせるために殺風景なのではないかと錯覚するほどに、花の主張というものは凄い。
しかしそれは決して悪目立ちというわけではなく、存在感はあるが人から嫌われない美人のような…。
そんな人間、いるわけないが。
「桜のせいで春の人々は心が掻き乱されている、というわけか?」
「いつ咲くかとか、いつ散るかとか、余計なことを考えてしまうじゃないですか。でもそれが良いよねって切なさも感じさせる詩ですね」
「ふーん…つまりお前の桜嫌いもそれが起因なのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」
そうじゃないなら今の話はなんだったんだ、と呆れ気味に言いつつ、珈琲を淹れる。
花屋のことを、私はよく知っているようで知らない。多くを語らないし、私も言及はしない。
よく花を持ってやってくる酔狂な奴、とだけ認識している。それでお互い困るわけでもないし、
きっとそれでいいのだろう。私たちは恋人ではないのだから。そして友人ですらない。
この関係を表す言葉など、きっと存在しない。爛れているだとか不潔だとか、そういう表現はナンセンスだ。
そもそも的を射ているとは言えない。
「やっぱり、姉さんの淹れる珈琲は美味いっすねぇ。これが無料なんて、それだけで大盤振る舞いですよ」
「私の飲むついでに淹れているだけだ」
何も訊かずに淹れているので、たまに飲まずに残されることもある。
しかしファミレスではないので、他に飲み物を用意できるわけでもない。
因みに砂糖もミルクも用意していない。ここに来た客は、ブラックの珈琲か水道水しか飲めない。
そもそも客は飲み物を目当てに来ているわけでないので、文句を言われたこともない。
「さーて、珈琲も飲み終わりましたし、行きましょうか」
「ベッドにか?」
「花見ですよ」
なんだ、結局行くことになるのか。いや、確かに最初は行こうと花屋は言っていたが、
その後に桜が嫌いだと言っていたじゃないか。どういうことだ。
やはり私には、花屋のことが理解できない。違うか、結局のところ人間は、他人のことなんて理解できないのだ。
共感はできても、知ることなんて不可能なのだろう。

「七部咲きってところですかね」
「満開との差異が私にはよくわからないな」
平日ということもあり、桜並木の下で酒を飲む人の姿は見当たらない。
私には曜日というものは関係ないが、世間の人々はそうはいかない。
まるで雨のように降る花弁を手に取り、日にかざしてみる。
日光を通すとほとんど白になるそれは、これ一枚では全く意味の無いものに思えた。
密集しているから美しく思われるのだろう。
「良いですねー、誰もいない花見」
「桜は嫌いなんじゃなかったのか?」
「好き嫌いと、綺麗汚いって違う感覚じゃないですか?嫌いでも美しいと感じることはあるでしょう」
「確かに、嫌いな人間でも美形ならそうと感じるな」
「悔しい、でも感じちゃう!みたいな感じですね」
「急に頭が悪くなったな」
花屋は笑いながら桜と私を交互に見る。
比較されているのだろうか。桜は嫌いだが美しい、
ならば私は好ましいが美しくはない、といった具合だろうか。
「女性を花に喩える人っていますけど、どう考えても女性の美しさには敵わないですよね」
「そんなことを考えていたのか、私の顔を見ながら」
そしてそれは花屋としてどうなんだ、と問い詰めても良かったのだが、
軽く躱されて終わりだろう。シニガミとはまた少し違う、掴みどころの無さ。
この男には何を言っても揺らがないのだろう、という謎の確信がある。
「だって美しいじゃないですか」
「自分ではそんなこと、微塵も思ったことはない。それにそんなに女が好きなら、しっかりと彼女を作ってみたらどうだ?」
都合のいい、後腐れのない女が良いなら私は適任だろうが、
幸せになろうと思うなら私と過ごすのは間違いだろう。
しかし、そもそも常連となっている時点で、彼女を作る気は無いのかもしれないが。
「彼女とか、結婚とか、そういう約束ってそんなに大事ですかね?僕は約束も確約もいらないんですよ。その日だけの関係だろうと末永い付き合いだろうと、僕にとってはどちらも等しいんです」
「独特だな。人のことを言えないが」
私も誰か一人を長く、永く愛したことなんて一度もない。
俺がいるだろ、と煙草臭い声が脳内に響いた気がしたが、振り払う。
違うと断じてしまうと、過去の自分さえ否定してしまう気もするが、
そうだった、あれは確かに愛や恋の類だったと肯定することもしないでおこう。
ただの過去の出来事で、それ以上でも以下でも無いのだと言い聞かせておこう。
「そういえば、今回はちゃんと調べておきましたよ」
「何の話だ?」
「花言葉ですよ。ジャスミンの花言葉は愛想の良い、愛らしさ…そして、官能的です」
「…なんだかメッセージ性を感じるんだが」
「気のせいですよ」
花屋は笑いながら私の手を握った。随分と急だが、驚きはしない。
あぁ、全くどうしようもないくらい、私たちは桜に心を乱されている。
過去の人の言う通りだと思ったが、やはり桜は好きになれない。
私の平穏を少しでも乱すそれを、私は愛そうとは思えないからだ。
「女は花に喩えられるが、私には男こそが花に思えるな」
「それはどうしてです?」
私は答えを濁し、さぁな、とだけ返事をした。
ジャスミンの花言葉は私には全く関係がなかったらしい。
こんなに愛想が悪い女も、そうはいないだろう。
散る花弁の中で、花屋の体温を掌に感じながら、
私は静かに微笑んだ。

本当は老人が来訪する話を書いていたのですが、
全く筆が進まなくなり、急遽花屋が主役の話になりました。
というわけで随分と遅くなった宿ですが、
個人的には今までと少し違うテイストに仕上がったかな?
とか思っています。どうでしょうかね。

次は巡り巡って、また夏のお話になりそうですね。
…あれ?【宿】って1年くらい続いてるの?

それでは~
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プロフィール

リューニャー

Author:リューニャー
メール:whale_in_the_cup?yahoo.co.jp
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生息地 北海道
職業  保育士
性別  男(21歳)
読書とゲームが好きです
PSPo2iインフラは9月29日に終了しました。
PSO2 シップ1
漫画冊数:1338冊
Twitterやってます。
→@mukootoaoto(ブログ更新情報も見れるよ!)

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