宿 -蝉時雨

(2016-08-06)
こんにちは。この前の記事もよろしくね!

というわけで本日2記事目でございます。
今日お墓参りに行った…
というのはこれの前の記事で書いた通りですが、
その道中、車内で【宿】の新作を、
1から書いていたんですよ。

すると、まさかの到着前に完成。
3時間くらいで書きました。
事前に何か構想を練っていたわけでもなく、
自分でも結構驚きました。

他の記事に比べると長いとは思いますが、
ブログ向けなので小説みたいに長い!
ってほどではないと思います。多分。

過去の作品はこちらからどうぞ。
宿 -雨宿り
宿 -愛煙消えん



熱した鉄鍋の中で煮えたぎる油に、天ぷらを投入した時のような音が外でずっと響いている。
メスを求める必死のアピールなのだから仕方がないが、
人間のオスにはここまで熱烈な求愛はされたくないものだ。
そもそも、そんなに激しく求められなくても応じてしまう私は、
もし蝉の世界にいたら口説き落とすのはさぞ容易だろうな、と自嘲気味に思った。
ぺりぺり、とソファが肌に張り付くのが不快なので、
テーブルの上にぞんざいに置いてある、冷房のリモコンに手を伸ばす。
が、微妙にソファからでは手が届かず、限界まで伸ばした肘が震えだしたので、
仕方がなくソファから下りてリモコンを手に取った。少し横着をしただけで、余計に汗をかいた。
冷房にリモコンを向け、室温をアイスがしばらく溶けない程度まで下げる。
…いや、下げようとしたのだが、どうにも反応が無い。何度もボタンを押すが、完全に沈黙している。
「壊れたか…」
今年はまだ動かしていなかったから、去年から壊れていたのか、
それともこの暑さにやられたのかはわからない。
しかし夏に使う家電が暑さに弱いのはどうかと思う。新しいのを買うか、これを修理に出すか。
少し悩んだが、金に余裕はあるわけだし、思い切って新しいのを買うとしよう。

ピンポーン

蝉時雨を割って鳴り響くチャイムの音が、求愛する蝉の鳴き声に被って聞こえた。
冷房の効いていない部屋でするのは嫌なのだが、それもまた風情だと割り切ろう。
吸着力の弱った吸盤みたいに、ぺたぺたと足が床にくっつくのを我慢しながら玄関へと向かう。
どうやら訪問者は気の長い男のようで、チャイムは一度しか鳴らなかった。
「はいはい」
とドアを開けると、そこに立っていたのは。
「…こんにちは」
気の長い男ではなく、髪の長い女だった。

室温は少し冷めたスープくらいだろうか、生温い空気が膜みたいにまとわりついている。
アイスコーヒーを女の前に置くと、軽く頭を下げ、ストローに口を当てる。
音を立てず、静かに白い道が茶色くなっていく。
改めて彼女を見てみる。腰まで伸びた黒い髪に、私にはとてもじゃないが眩しすぎて着られそうにはない真っ白なワンピース、目は少し細く、その下には濃い隈があり、表情に陰りがあるように見せている。控え目な赤の唇から時折覗く白い歯が、彼女の儚げな可愛らしさを際立たせている。少しメランコリーな夏のお嬢様、といった感じだ。目立った荷物は無いようで、訊ねると財布はあります、とだけ答えた。
「この【宿】に金銭は不要だ。まぁ、くれると言うのなら有り難く貰うが」
「…えっと、無料で泊まっても良いんですか?」
「基本的には男が利用するんだが、まぁそうだよ。冷房は壊れているが、それでも構わないなら泊まっていけばいい」
もし私の客が来たら、君も襲われるかもしれないけれど、と付け加えた。
この可愛さならあり得るし、どこまで庇えるかはわからないから注意しても損はないだろう。
「大丈夫です、私はあまり男性からは求められないので…」
「男性から、は?」
「私は男性が好きなんですが…いつも女性に告白されるんです」
「私の友人にも、同性愛者ににモテる筋肉質で顎髭を蓄えている男がいるよ」
彼女の場合、女性を惹き付ける何かがあるのだろう。私には皆目検討も付かないが。
「どうしてここに来た?」
私は本題に入る。ここに女性が来たのは、前例が無いわけではないが、ここ数年は無かった。
男は単純で、理由など訊ねなくてもわかるのだが、女性となるとわからない。
無料で泊まれるという点に注目したのか、男と同じく私目当てか。
それこそ、彼女程ではないが、私も求められることがある。
そして、それを断らない。男でも女でも、ベッドの上だと所詮は同じ生き物だ。
「同棲している女性が鬱病でして。今は一人にしてほしいと言われたので、適当に宿を探していたんです」
泊めてくれるような友人もいないので、と彼女は真顔で言う。
そこは少しは笑いながら言ってほしかった。…友人がいないのは私も一緒だが。
「なるほど。しかし君は男性が好きで友人はいないと言うのに、女性と同棲しているんだな」
「ルームシェアですね、そして友人と呼べるのは彼女だけです。だから、他に友人はいません」
「彼氏は?」
「…もう三年はいません」
より一層と表情に陰を落とし、俯いてしまった。
過去に何かがあったと思わせるには十分すぎる反応だ。
「どうやら嫌なことを思い出させてしまったようだな。追及はしないよ」
古い傷を触りたがるのは子どもだけで十分だ。
傷を癒やすのは時間だが、それを膿ませるのはいつだって人間なのだから。
「いえ…ありがとうございます」
アイスコーヒーに差してあるストローみたいに彼女は頭を下げる。
長い髪がふわりと揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。いつもやってくる不躾な男たちを思うと、
男よりも彼女を求める女の気持ちがなんとなくわかった気がした。
キスの一つでもしそうになったが、思い留まって唇の行き先をストローに変更した。

夜になっても部屋の暑さは改善されず、
変わったのは蝉の鳴き声が止んだことくらいだ。
「本当は蝉って、一週間以上生きるそうですね」
シャワーを浴び終えた私に、彼女は不意にそんなことを言った。
それは初耳だ、と返しながら、なるべく通気性が高く、そのまま眠れるような服に袖を通す。
「飼育下ではストレスで一週間ほどしか生きられないそうですが、野生の蝉はもっと生きているそうですよ」
「ふぅん、ならあんなに大きな声で鳴かなくても良いじゃないか、と思ってしまうな」
服を着終え、私はソファに座る。彼女と合わせて二人分、ソファが静かに沈む。
「地上に出て死ぬまでにパートナーを見つけないといけないわけですから、必死なのは仕方ないですよ」
「人間はパートナーを見つけるだけが全てじゃないから、蝉を五月蝿いと思うんだろうな」
自分で言っておきながら引っ掛かった。なら私は、蝉とは違う生き方をしていると言えるだろうか。
物心がつくことを地上に出たと言うのなら、私は蝉と変わらないのではないだろうか。
いや、子孫を残すつもりが無い分、蝉と比べるまでもなく低俗だ。
「突き詰めてしまえば、人間もパートナーを見つけるために生きているようなものじゃないですか?恋人とは限定せず」
「独りでは生きていけないから、誰かを見つけるために人は生きている…か」
大きな声を出せない人間もいるのだから、皆大声で求愛できる蝉を見習うべきかもしれないな。
…大声で求愛することが正しいとは断言できないが。
「もしかすると蝉は恋人募集中、ではなくて私はここにいるよ、と鳴いていたりして」
彼女はそう言って、私に微笑みかけた。
そうか、どんな生き方をしていても、私は私なのだ。
「もう少し自信を持って生きても良いのかもな」
自分に言い聞かせるように、私は小さく呟いた。
私の心の声を聞けない彼女からすれば、なんのことだかわからないだろう。
「あ…そろそろ寝ますか?」
「ん?もうそんな時間か」
眠くなったら寝る、目が覚めた時間に起きる。
そんな欲求に正直に生きている私にはこんな時間だから寝る、という概念は存在しない。
「君は眠たいのか?あまりそうは見えないが」
「私は…不眠症なので…」
それで隈が濃かったのか。少しの沈黙の後、
私のことは気にせず好きな時に寝てください、と彼女は付け加えた。
どうやら一日一時間寝れば睡眠時間としては長いくらいらしい。
「もう少し付き合うよ。私はここにいるよ、と君の隣で鳴き続けよう」
冷房の効いていない、蝉も鳴き止んだ深夜。男の居ない空間で、求愛でもなく鳴き続ける。
鬱病のルームメートからの電話が彼女の携帯を鳴らすまで、蝉時雨は止まない。

なんだか少し書いていないと、
「あれ?こんな口調だっけ?」
と大変不安になりますね(笑)

初の、宿主以外の女性キャラの登場。
実は、彼女はブログには載せていない、
「メランコリー・インソムニア」というお話の、
ヒロインの1人だったりします。
自分にしかわからないクロスオーバー。うふふ。

今回もPC閲覧を前提としている改行なので、
しかもかなり適当なので、読みにくかったり、
ケータイで閲覧すると違和感があったりするかもしれません。
目の疲れに気を付けて、頑張って読んでください。

因みに、僕はまだ今年蝉の声を聞いていません。
蝉時雨、僕は嫌いじゃないけどなー。

それでは~
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プロフィール

リューニャー

Author:リューニャー
メール:whale_in_the_cup?yahoo.co.jp
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生息地 北海道
職業  保育士
性別  男(21歳)
読書とゲームが好きです
PSPo2iインフラは9月29日に終了しました。
PSO2 シップ1
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